あいちシンクロトロン光センターでのXAFS講習会

2018年11月 2日 11:45 カテゴリ:学生日誌

こんにちは.ロバート研M1の彦坂柾成です!

今回,僕は10月15日と16日の2日間,愛知県瀬戸市にあるあいちシンクロトロン光センター(通称AichiSR)というところで,XAFSという新しく用いる手法の講習会に参加してきたので,そのことについて少し記事を書かせていただきました.あわせてホームページの研究紹介の欄の熱水エビの箇所も更新しておいたので,興味がある方はそちらもご覧ください.

放射光とXAFSについて

まず,AichiSRというのは日本で数か所しかない放射光を作ることのできる施設です.

放射光というのは,電子をシンクロトロン加速器で曲げる際に出る赤外線からX線までの波長を持った電磁波のことです.非常に高い輝度を持ち,用途によって必要な波長の電磁波を取り出して用いることで,幅広い利用ができるということで,一部では夢の光と呼ばれ,近年注目を浴びています.

今回僕が学んできたXAFSという手法は,X線吸収微細構造(X-ray Absorption Fine Structure)の頭文字をとった言葉で,エネルギーを変えながらX線を試料に照射していった際に得られる透過X線の吸収スペクトルの微細構造のことになります.この測定には,明瞭な吸収を見るために高い輝度(強度)をもつX線,そしてスペクトルを得るために幅広いエネルギー領域のX線がいるので,上述のような放射光源が必要になります.仕組みとしては,放射光から分光結晶を用いることで特定の波長(≒エネルギー)のX線を取り出し,ミラーでビームを絞ることで試料にX線を照射します.そして分光結晶の角度を徐々に変えていきX線のエネルギーを上げいくことでXAFSを得ます.物質中の原子はその種類や電荷,周りにある原子によって固有なエネルギー領域で吸収を引き起こすため,XAFSには,試料に含まれる元素の情報,その元素の価数,対象元素の周りにある原子の情報など非常に多くの原子レベルの構造が反映されます.XAFSを解析することでこれらの情報を手に入れることができるのです.細かなこれらの原理については少し難しく自分の頭が追い付いていない部分もあり省きますが,僕はXAFSを用いてRimicarisのギルチャンバー内にみられるよくわからない鉱物たちを詳しく調べてやろうと思っています.

AichiSRでの講習会

前置きが長くなってしまいましたが,今からAichiSRでの体験について書いていきます!

少しわかりにくいですが,図1の上半分に見えているのが電子を高速で回す加速器と,電子を磁石で曲げて放射光を発生させる蓄積リングになります.1周72 mもあります.兵庫県にある有名なSPring-8という大型放射光施設の場合だと,この蓄積リングの円周は1500 mにもなり,施設内の移動で自転車を用いているそうです.この蓄積リングから放射光を取り出して,様々な実験を行うわけですが,AichiSRの場合,11のビームラインが蓄積リングから伸びています. それぞれのビームラインで用途に合わせて放射光を集光,分光し,実験ハッチ内で実際に実験が行われます.

AichiSR_experiment-hall.jpg 図1.AichiSRの実験ホールの様子

今回,僕が測定体験をさせてもらったのは,BL11S2という硬X線と呼ばれる高いエネルギー領域(波長の短い)のX線を取り出して,XAFS測定を行うことのできるビームラインです.放射光から取り出されたX線は,検出器0→試料→検出器2→スタンダード→検出器3のと3つの検出器を通過していきます(図2).検出器1と2で検出したX線の強度の差分から試料のX線吸収スペクトルを得て,検出器2と3で検出したX線強度の差分からスタンダードの吸収スペクトルを得て,微妙な測定のずれを修正します.

BL11S2_1.jpg図2.BL11S2のXAFS測定装置(http://www.astf-kha.jp/synchrotron/userguide/gaiyou/bl11s2_xafs.htmlより引用した図を改変)

今回は様々な比で混合されたCuO粉末とCu2O粉末の混合試料のXAFSを測定し,解析ソフト上で標準試料(CuO100%粉末とCu2O100%粉末)のXAFSとフィッティングを行うことで混合試料中のCuO:Cu2O比を算出するという実習を行いました.実際の測定は意外と早いもので,1試料1分程度で済んでしまいました.得られたデータはAthenaというフリーソフトで解析を行います.解析を行うことで, そのスペクトルに隠された試料の含有元素の化学状態に関する情報を抽出することができるのです.図3は実際に得た試料のスペクトルになりますが,混合比によってスペクトルの形が少しずつ変わっていっているのがわかります.算出された混合比は実際の混合比と誤差1%の範囲内で一致しました.元素の価数がこれほどの精度で分かるのはなかなか驚きでした.

AichiSR XAFS spectrum_low.png図3. 試料のXAFS(XANES)スペクトル

今回のAichiSRでの講習会は,2日間でXAFSの基本原理の講義,解析ソフトの使用法の講義,実際の分析に際した試料作製,測定,解析実習というXAFS測定の一連の流れを勉強・体験することのできるとても贅沢な講習会でした.しかもなんと無料です. AichiSRでは定期的にこのような講習会を行っているようで,「XAFSに興味はあるけどどんなものなのかよくわからん」という方にはぜひおすすめです!

最後は宣伝的な感じになってしまいましたが,とても充実した2日間でした.本で読んでいただけより何倍も理解が進んだかなと思います.金沢大に帰ってポスドクの方に言われた言葉ですが,「本を読むより話を聞く,話を聞くより触って体験する」ということの大切さを実感しました.

12月にはつくばにあるフォトンファクトリーという大型放射光施設で,東京大学の高橋嘉夫先生との共同研究で実際に自分の試料の分析を行います.いったいRimicarisのギルチャンバー内に見られる鉱物たちはどんな物質なのでしょうか?Rimicarisのギルチャンバーの中では何が起きているのでしょうか?ここから一歩先へと研究を進めることができそうでとてもわくわくしております.

今からの時期は何かと忙しいのですが,一つ一つのことをおろそかにせず頑張っていきたいと思います.

最後に本講習会にてたいへんお世話になったAichiSRの皆さまには厚く御礼申し上げます.ありがとうございました.

※本記事の写真や図は全てAichiSRに許可を得て載せております.