研究室の目指すもの

ジェンキンズ研究室の専門分野は「古生物学」「地球生物学」「深海生物学」です.古生物学をベースにしつつ,化石と現生の両方扱いながら地球と生物の関係を明らかにすることを目指しています.

特に地球と生命の関係の本質を探りたく,深海のメタン湧水や熱水などの地球内部と生物圏の接点に形成される"極限環境生物"の進化を研究しています.

微生物の研究をやることもありますが,大型生物の研究がメインです.地球の環境は微生物が支配しているとか言われることが多いですが,微生物たちだけがどうにかしているわけではありません.極限環境生命圏では微生物と共生関係を結んだ動物たちが大活躍です.その視点で,長大な地球史を解き明かそうとしている研究室は世界でもそうありません.

ようこそ,地球生物学の世界へ!

極限環境生命圏の進化史

地球と生命がもっとも密接に関わり,生命の本質を探るのに最も適した場所は極限環境です.

海底に湧く熱水やメタン冷湧水には奇妙な生物が群がっています.その多くは体の中に硫化水素などをエネルギーとする細菌を共生させ,その共生細菌から栄養をもらっています.ハオリムシ(チューブワーム)と呼ばれる動物にいたっては,口や肛門もありません.シロウリガイ(二枚貝)は,共生細菌を自分の卵を通して子供に引き継ぎます.なんともすごい生物たちです.

私は彼らの進化を知りたいのです.いつ極限環境に進出し,どのような進化をたどってきたのか.現在メタン湧水や熱水に生息している生物のDNA解析から彼らの祖先は海底に落ちた有機物の塊(鯨の死体や陸から流れてきた木(沈木)につくられた環境で進化し,その後,メタン湧水や熱水といった極限環境へと進出したとの「進化のステッピング・ストーン(飛び石)」仮説というのがあります.

面白い仮説ですが,本当でしょうか?化石を使えば検証できそうですよね.

でも,まだまだこういった生態系の化石記録が少なくて検証できる段階に至っていません.まずは化石記録を充実しなければなりません.世界で極限環境生態系の"化石"を探しましょう.そして,鯨や中生代であれば首長竜などの海棲爬虫類が,そして沈木が,海底でどのような腐敗過程をたどるのかの基礎的研究も行います.

関連した研究プロジェクト

  • 深海生物の生態
  • メタン湧水生態系を化石で探る
  • 竜骨群集・鯨骨群集
  • 腐敗実験
  • 沈木群集

生態系の根幹を探る「腐敗の生態系」

生き物は死ぬと腐ります.あたりまえです.陸でも海でも腐敗はおきます.でも,どうやって腐敗していくのか,誰が腐敗を促進しているのかをまじめに考えたことがありますか?陸上では例えばハイエナやハゲタカが屍肉をあさる光景をテレビなどで見たことがあると思います.海ではハイエナの代わりに魚やカニ,ゴカイが屍肉を食べます.彼らが屍肉を取り去ったらそれで腐敗は終わるのでしょうか?終わりません.むしろ始まりです.残された骨を中心として腐敗の生態系が始まるのです."骨が腐敗する"とは不思議な表現ですよね.正確に言えば骨内に存在する有機物が腐敗していくのです.腐敗の過程で高濃度の硫化水素が生成されます.硫化水素は多くの動物にとって毒ですが,その毒をどうにか克服して骨内の有機物を食べる生物がいます.まずは腐敗を促進する生物にいったいどのような種類がいて,何をしているのか(本当に骨内有機物を食べているのか).それを探ります.

関連研究プロジェクト

  • 鯨骨&亀骨腐敗実験

深海生物の生態

深海生物の中にはとても変わった生き方をしている生物がたくさんいます.熱水やメタン湧水であればいかに海底下から湧き出す水からエネルギーを得るかが問われる.進化の過程で獲得した様々な生き方を明らかにしていきます.

関連研究プロジェクト

  • アナガッチンガー:深海で世界初の巣穴型取りを実施し,成功した.海底下に生きる生物のす生き様を垣間見ることに成功したのだ.アナガッチンガー物語もこちら.
  • 金属うんちを持つ熱水エビ:熱水には硫化水素だけではなく金属元素も豊富に含まれ,その一部は熱水鉱床になっていきます.その熱水中の金属元素を鉱物として食べているエビがいます.なぜ食べているのかは謎ですが,食べているのはち事実です.めちゃめちゃ不思議ですし,そのエビは大西洋やインド洋の中央海嶺の各チムニーに万単位で生息しています.

過去の食物網の復元

古生物学者の夢.それは過去の生態系をあますことなく復元することだろう.それには生物同士の喰う・喰われるを明らかにしなくてはならない.古くから胃の内容物や歯の形態などから古生物の食性が探られてきました.もちろんこれらの方法もアリなのですが,生態系をピラミッドとしたときの生物の栄養的な位置関係(栄養段階)を推定できるとこれまで以上に過去の食物網が復元できるのです.しかし古生物の栄養段階はそう易々とは決まりません.さてどうするか?近年,生物の持つ各アミノ酸の窒素同位体比分析から栄養段階を推定できる方法が開発され,実用化されつつあります.この方法は結構ビシッと栄養段階が推定されるので,これを化石に応用します.とはいえ,化石でアミノ酸が残っているのか,残っているとしても地層中に受ける熱や圧力の影響で同位体比が変化してしまっていないかなど,確かめるべきことがたくさんあります.それらを確かめまくり,うまくこの方法を化石に応用していき,古生物学者の夢の実現を目指すのです!

関連プロジェクト

  • アミノ酸はどのように化石となるのか?古生物の食物網解析に向けた第一歩