第66話 分析屋の誇りと願い

2019年5月26日 12:00 カテゴリ:兀天狗

GC/IRMSの改良を通して,私の分析に対する価値観は大きく変わりました.

自分自身で装置をいじったこと,後藤さんからのいろんな研究の話を聞けたこと.

どれをとってもかけがえのない日々です.

私は現在,化学分析の会社に勤めていますが,その頃の経験を元に仕事しています.

一連の実験によって「分析」の考え方の基礎を構築することができました.

私は勝手に分析を専門としている人を「分析屋」と呼んでいます.

化石なら化石屋ですね(トラファルガー・ローみたいに).

私はM1の途中まで,化学分析できる環境が当たり前に感じていました.

でもそれは違いました.

私(を含めていろんな人)が分析したいものを分析できるのは,

機械のメンテナンスをしている人,管理している人がいるからです.

アミノ酸ひとつをGCで測定するにしても,いろんな測定条件(温度,昇温速度,線速度,保持時間など)を検討しなければなりません.

どのカラムを使用するかによっても大きく変わります.

そして,その装置を使用するためのガスや数多くの消耗品があります.

技術者は種々の測定条件を決め,装置の状態を常に良好にしています.

装置のメンテナンスや日々の取り扱いをきちんとしなければ,たとえ分析できたとしても精度の良いデータを得ることはできません.

あなた(私)が,ある物質を分析するためには,装置を維持している人がいることを忘れないでください.

ましてや,昨今はヘリウムガスの枯渇問題など,いつ分析ができなくなるかはわかりません.

分析化学は測定対象にもよりますが,ランニングコストもかかります.

依頼分析をして,「高い!」と感じることがあると思いますが,

分析機器の性能をキープするためのコスト,それをキープしてくれている分析屋への技術料が含まれていることを忘れないでください.

その費用対効果をして,分析屋は,与えられた試料の目的物質を"しっかり"測定してくれます.

あなたが求めたデータの誤差を小さくするために分析屋は「分析」のパートを全力でサポートしてくれます.

そのデータを無駄しないためにも,あなたは,分析するまでのプロセス(目的,サンプリング,前処理)に全力を注いでください.

そして,そのデータの解釈をするのはあなたです.

誤った解釈をすると,データがひとり歩きしてしまいます.

そうならないためにどうするか.

データの扱い,分析化学(機器分析)に関する知識を習得しましょう.

すなわち,統計学と分析化学です.

少なくとも,「精度」,「真度」,「標準偏差」,「誤差」あたりは頭に入れておくべきです.