第59話 アミノ酸の窒素同位体比を測定する

2019年4月 7日 12:00 カテゴリ:兀天狗

大変長くなってまいりましたが,ようやく最終章です.

私の研究生活で最も充実していたM2時の話,「同位体質量分析計のアップグレード」です.

アミノ酸の窒素同位体比を測定することがどういうことかわからない方もいらっしゃると思いますので,

まずは,GC/C/IRMSを用いたアミノ酸の窒素同位体比を測定する原理を説明します.

GC/IRMSを用いた同位体比測定について力石・大場(2008)に詳しく書かれていますので,そちらをご覧になればよく理解できると思います.

本文はこの論文も参考にしています.

図1.jpgこちらの図は,GC/C/IRMSの簡略図です(参照 Thermoのマニュアル).

窒素を含む物質における分子レベルでの同位体比を正確に測定することは,それ以外の物質中の炭素や水素の同位体比を測定するよりも難しいです.

順を追って説明していきます.

窒素を含む有機化合物がインジェクションされると,GCのキャピラリー(in オーブン)を通り,化合物が分離されます.

分離された化合物はCombustion Ovenで酸化されます.

CHNO → CO2 + NOx + H2O (1)

(下付き文字にできなかったので,そこはご了承ください!!!)

窒素が含まれていない化合物の炭素の同位体比(δ13C)を測定する場合,

1で生じたCO2(分子量44)を質量分析計で測定すると,44と45のmassが得られるので,その比率を利用します.

しかし,窒素は酸化されると,NOとNO2とN2Oの3つが生じてしまう可能性が高いです.

ここで,NOとN2OはCO2と同じ質量数を持つ可能性があり,炭素同位体比の測定に影響します.

また,分子量がばらばら(NO, NO2, N2O)なので,窒素の同位体比も測定できません.

この問題を解決するために,窒素酸化物を還元させ,N2の状態にします.

NOx → N2 (2)

これで,窒素を含む化合物の同位体比が測定できる.

というわけではありません.

酸化・還元の反応炉には,窒素だけでなく,水素や炭素も含まれています.

窒素の同位体比を測定する際に問題となるのが炭素.

炭素は充分な酸化力のもとで酸化されるとCO2になりますが,

酸化炉の消耗や低温などに伴う不完全燃焼によって,COになることがあります.

COの分子量はN2とかぶってきますので,同位体比の測定に影響します.

また,酸化炉・還元炉ともに,負荷(力)をかけすぎると,炉内の酸化剤や還元剤が消耗しやすくなります(コストがかかる).

酸化力・還元力ともに,大きすぎず小さすぎない適切な範囲があり,

両者の微妙な調整が腕の見せ所です.

以上のような反応から,アミノ酸の窒素同位体比が測定できるのですが,

私がお借りすることとなる長谷川研究室のGC/C/IRMSには,還元炉がついておりません(たぶん大抵ついてないです).

したがって,アミノ酸の窒素同位体比を測定するための最初の関門は「還元炉の作成」です.

還元炉は「還元剤が入った管」と「電気炉」から成ります.

「還元剤が入った管」(セラミック管が主流)はメーカーのものを使用することになりましたが,

「電気炉」のメーカー品は100万か200万程度かかります.

もう少し価格を抑えたものにしなければジェンキンズ研が破綻してしまう.

「じゃあ,いいやつ探しといて」

ジェンキンズ先生の指令が出ました.還元炉探しのスタートです.

ーーーーーーーーーーーー今日から使える英語表現ーーーーーーーーーーーー

miss opportunity 「チャンスを逃す」

He missed opportunity to talk with the beautiful woman.